今回も詳しい内容については『サンホララボ（動画）』で語られているので、私は本作を取り巻くサイドストーリーのようなものを中心にお届けしようと思う。今振り返ると、2013年当時のRevoはなぜか焦っていた。この年に放送が開始されたテレビアニメ『進撃の巨人』でOPテーマ「紅蓮の弓矢」を手掛けたSound Horizon（SH）の別動隊であるLinked Horizon（LH）が日本中から......否、世界中から注目を集め、この年の大みそかに開催された「NHK紅白歌合戦」にも出場を果たすことになるわけだが、『ハロウィンと夜の物語』に関するインタビューをした際には「（LHに注目が集まっている現状を機に）SHをもっと多くの人に知ってもらいたい」「もっと聴いてもらう努力もしなければならない」と、普段あまり口にしないコマーシャルな側面や認知度戦略的なことについてもRevoは熱く語っていた。同年10月26日に本作の楽曲を中心とする「Revo's Halloween Party」が、SHコンサートとしては最大規模の会場「さいたまスーパーアリーナ」で開催されたわけだが、そんな華々しい舞台でもRevoはMCで「（描いていた目標に届かず）悔しい」と、“もっとできたはず” “現状に満足できていない”という趣旨の発言と共に語っていた。その真意は後のインタビューで明らかとなったのだが、Revoが当時SH10周年に向けて邁進する中で、急速に注目を集めていくLHの活動と並行しながら、作品を重ねるごとに高次元な音楽作品とコンサート（ならびにコンサートの映像作品）を生み出し続けなければならないSHの活動と、当時の音楽シーンにおける自らの立ち位置などに対して、上手く結果を出せていない（気がしている）自分自身を責めていたようだった。いやいや、ちょっと待って！ さすがにそれ全部完璧にやり遂げるのは不可能というか欲張りすぎですよ！......とは内心思いつつも、常に作品を待ち続けてくれているローランたちへの溢れる愛と優しさとサービス精神がそうさせていたわけで、実は本作がハロウィンを題材にしている背景にはそんなRevoの商業的戦略、つまり今や日本中で親しまれている一大仮装イベントとなったハロウィンと〈勝手にタイアップすること〉が潜んでいたのである。しかしそんなコマーシャルな意味合いも込めて制作された本作であってもRevoの批評精神は弱まるどころか高度に冴えわたる。「ハロウィンとはどのような人々の歴史と文化に根差したものなのか」を「星の綺麗な夜」で問いかけながら、過去のStory CDともリンクさせるような言葉遊びも歌詞に張り巡らし、「朝までハロウィン」でハロウィン・パーティー・ソングの新たなスタンダードを作り上げ、一連の物語が「おやすみレニー」で一つに紡がれ感動の涙に心震える......という過去に前例のないハロウィン絵巻を作り上げてしまった。バカ騒ぎを煽るハロウィン・ナンバーは数あれど、ここまでハロウィンという文化と真面目に向き合った作品が過去にあっただろうか？ 19世紀のアメリカ近代史を知る上でも最高の参考書となりえる本作は、ハロウィンを迎えるこの時期に今も多くの人々に広めていきたい1枚である。
ハロウィンをテーマにしたこのシングルですが、まず絶対に言っておかねばならないこととしては、この作品が、Sound Horizon（SH）の中でも指折りのキャッチーな一枚なのです。つまり、SHを知らない人でも、なんとなーくでも、聴くと楽しい気持ちになれちゃう作品ってことです。まさに、ハロウィンパーティーのBGMとして、かけておいてもいい。そんな一枚。
特にM2「朝までハロウィン」は、軽快さと楽しさを詰め込んだ必殺のキラーチューンであります。わずか3分半と、サクッと終わるのもいいですね。シングル曲っぽい！ 2013年リリース時の初回盤には、ゆかいな人形劇による、この曲のMVまで収録されていました。お茶目なムードたっぷりです。
話は戻って、M1「星の綺麗な夜」もナイスな内容です。こちらは10分半という長い曲なんですが、目まぐるしく転調を重ねて、全く飽きさせることがありません。曲調が移り変わっていくのはSHではいつものことなんですが、この曲に関してはにぎやかなムードも手伝ってか、どちらかというと気持ちのグッと盛り上がるプログレッシブロックといった風情があります。しかも登場人物の性格に合わせた、気っ風のよさげなボーカルがまたロックっぽくてカッコいい。
そんなわけで、楽しさいっぱい、夢いっぱいの『ハロウィンと夜の物語』でございました〜......と、素直には終われないのがSHのにくいところです。最後のM3「おやすみレニー」が流れまして、あ、この曲は女声ボーカルなのかな〜？ くらいの気持ちで聴き始めると、「病弱」とか「友達が出来ない」とか、何となくさみしい感じの歌詞が耳に入ってくるわけですよ。
あれ？ 楽しかったさっきまでの雰囲気はいずこへ？ と、気づいたところで、このシングル盤が描いていた世界観はすべて反転、今までの曲の内容が伏線のように真実を示しはじめる......といったところでしょうか。こういうどんでん返しのお話って、ありますよね！ M・ナイト・シャマラン監督の映画『シックス・センス』みたく、全部わかった上でもう一回見たくなるやつ！ と、いうわけで、そういうタイプの物語が好きな人にも、『ハロウィンと夜の物語』はすごくオススメです。ぜひ聴いてみてください。僕ですか？ 僕はもちろん、そういうの大好き。なので、これからもう一回聴きます。
私は好きです。クリスマスやバレンタインに反発しがちな厨二病精神と、オレンジと黒のカラーリングに惹かれたことから、90年頃にはハロウィングッズやお菓子を学校に持っていってました。2000年前後からは日本でもハロウィンが浸透し、近年では良くも悪くも年中行事として定着しましたが、そんな盛り上がりに“のっかって”、「Sound Horizon（SH）をたくさん聴いてもらおう」という部分があったのが、この『ハロウィンと夜の物語』です。しかも今作は、アニメ『進撃の巨人』放映開始後初のリリース作品だったため、発売前から注目されることも予想されていました。事実、リード曲であるトラック2「朝までハロウィン」は当時有線やラジオ番組でよく流れたものです。なので曲のド頭では、発売年に流行した「今でしょ！」の言葉が盛り込まれています。子ども達の元気なコーラス、陽気に歌うサックス、軽快に跳ねる2ビートなど、SHにしてはかなり快活で楽し気な雰囲気をまとってもいます。曲の長さも3分18秒とSH曲にしては短いです。そう、お気づきかもしれませんが、「朝まで－」はSHにおけるパーティソングなんです。もう少し正確に言えば、ボーカルの「The Halloween Night」（なぜか姿形はRevoによく似てますが）が子ども達を従えて歌ったり、「せぇ～のっ♪」とか言っちゃったりしてるので、SH版「WAになっておどろう」であり「パプリカ」（←SHを知らない人を呼び込むために意図的に検索ワードを増やしています）なんです。『おかいつ』（『おかあさんといっしょ』）のお歌みたいなものです。お子さんがいる方はハロウィン日におうちで曲を流し、一緒にはしゃいでみてください。お子さんがいない方も友達とのハロウィン飲み会には格好のBGMになるのではないでしょうか。そんな陽キャな曲なんです。
ただ、『ハロウィンと夜の－』には注意点があって、マキシシングルなのでトラック2の「朝まで－」以外にも、トラック1に「星の綺麗な夜」が、トラック3に「おやすみレニー」という曲が収録されています。前者は、ゴシックなワルツ、ケルト民謡、ハードロック、カントリー・ミュージック、ジャズとさまざまなジャンルの音楽で展開され、「闇」も感じさせます。10分半を超える楽曲でもあるので、SHに対して持っていたイメージに近いと感じる人も多いでしょう。一方、「おやすみ－」は浦安の夢の国でかかっていそうな母性と慈愛に満ちた楽曲ですが、その物悲しい内容はやはりSHらしさを抱いています。ただ、3曲全体で、ハロウィン発祥のルーツやアイルランドの歴史、同国の移民先となったアメリカとの関係などを描いてもおり、歌詞に出てくるワードを気になって調べ始めると、「ハロウィン」に詳しくなれるようになっています。ここがSH楽曲の面白いところで、個人的にはとても感謝を感じてもいます。だって、身近にある文化の歴史的背景に触れる、新しい知識を得るきっかけを与えてくれるんですから。
移民とアメリカの歴史に興味があるなら！
「アメリカの歴史って、南北戦争とゴールドラッシュくらいしか知らない......」という人におすすめしたい、ちょうどそれらの間に位置する、古きアメリカの移民の物語。聴きながら、かの国がどのように成り立ったのか、今こそ改めて考えてみたい。
Revo流テーマソング・オブ・ハロウィン。埋め込まれた謎や仕掛けは後回しに、騒いで、はしゃいで、ご機嫌になるのが正解。さながらディズニーワールドに出かけたハレの日のように。「楽しみたい！」人はぜひ。
この商品は、一般CDショップやECサイトにて購入可能である。
ショップ購入特典は先着のため、各店舗にて無くなり次第終了とのこと。
第5回の研究発表は以上となる。
今日もまた彼らの情熱に満ちた研究は続く......
