第6回 研究テーマ
9th Story CD『Nein』

  • 冨田明宏
    Sound Horizon史上最大の問題作は“革命継続”への決意表明

    やはり本作こそがSound Horizon(SH)史上、最大の問題作だと私は思う。『サンホララボ(動画)』でも申し上げた通り、この『Nein』という作品はSHが発表してきた過去の“地平線”と呼ばれるStory CDで繰り広げられてきた悲劇の物語に、便宜上R.E.V.O.という存在が介入し否定を繰り返し、幸福な物語に改竄していく......というのが主な内容だ。SHは長い歴史を持つ日本の音楽業界で、はじめて〈物語の考察を楽しむ〉という新しい文化を根付かした。しかしRevo自身は自らが生み出した物語であってもその解釈について言及することを避けてきたし、『Nein』がリリースされるまでは「自分はそれをしない」と明言してきたのだ。「自分の生み出した音楽や物語からローラン(ファン)が何を受け取っても自由だし、何を考察したって構わない」と。聴き手に渡った瞬間、その物語はその人のものになるはずだから......そう自らが明言してきた禁忌を“否定”してまで本作を生み出した経緯とは、いったい何だったのだろうか。動画でも述べた通り、まず一つはメジャーデビュー10周年記念の第三弾として発表された本作は、これまで長きに亘りSHを愛してきてくれたファンへの感謝だろう。SH作品を愛せば愛すほどに『Nein』という作品の衝撃度はすさまじく、SHに青春を捧げてきた多くのローランたちへのビッグ・サプライズであり最高のプレゼントでもあったはず。
    しかしである。“あのRevo”が、素直に感謝の想いだけを作品に込めたりするだろうか(失礼)。これは私の推論と考察だが、〈正しいとされている物事の見方を疑う〉ことと〈諦念の時代に生きる人々への力強いメッサージュ〉もたっぷりと含まれているのではないだろうか。インターネット上にはSH作品に関する考察を扱ったブログなどが無数に存在しているが、いつの間にか自らが物語について考えるのをやめ、自分の人生と重ね合わせて思考することもやめて、誰かの考察を読んで知った気になってしまってはいないだろうか。そしてこれまで〈運命に抗え〉と訴えてきたSH作品に触れていながら、「所詮人生なんて......」「こんな時代に何をやったって......」と漫然とした諦念に飲み込まれてやしないだろうか。Noëlは声を振り絞り「生きてるなら燃えてやれ」と叫んでいるのに。そして忘れもしない、2015年5月24日東京国際フォーラム・ホールAで行われた『9th Story Concert「Nein」~西洋骨董屋根裏堂へようこそ~』のラストMCで、Revoはこう宣言している。「この平和な時代に、音楽という革命を起こしてやる。見届けてくれ」と。『Nein』はやはり、途方もない覚悟を持って生み出されていた作品なのである。そしてそんな作品の結末については、Noëlという男に想いを馳せながら、それぞれが感じたままを胸に抱き続ければ良いのかもしれない......
    ......みたいな感じの私の推論や考察だってみんなが「違う」と思えば“否定”していいんです!
    しかしやっぱり私の中で『Nein』という作品は、メジャーデビュー10周年という節目の記念碑的作品でありながら、ローランたちに今一度SHという稀有な音楽プロジェクトの意義を問いただし、Revo自身が自らに活を入れ、革命継続のため未来へ向けて邁進するために打ち建てた金字塔的作品なのだ。これを問題作と言わずして、何と言おう。

  • さやわか
    虚実という二面性

    『Nein』は、Sound Horizon(SH)史上もっとも難解かつ、素晴らしく楽しいアルバムである。まず、この作品で語られるのは、これまでリリースされたStory CDで描かれた物語の否定だ。起こったはずの出来事が起こらなくなり、人々の悲喜こもごもがまるっきりひっくり返ってしまったりする。その狂騒と哄笑が、この作品の思い切りポップな楽しさにつながっている。
    つまり『Nein』というアルバムタイトルは9作目であるということと同時に(8作目がリリースされていない理由についても、謎めいた経緯が様々に存在するが、それについて語ることは惜しみつつ割愛したい)、過去の物語に対する否定辞となっている。
    自身の過去作へのオマージュをふんだんに採り入れた作りは二次創作的あるいはファンサービス的だと考えてもいいだろう。しかし、単なる二次創作やファンサービスなら過去の物語を追認する内容で行ってもいいはずだ。なぜそれが「否定」によってなされるのだろうか。そこには、SHがこれまでに展開してきた、物語、あるいは歴史に対する態度が関係している。
    というのも、たとえば『Elysion 〜楽園幻想物語組曲〜』や『Roman』ではとりわけ顕著にあらわれているが、SHでは、その物語で本当に何が起こったのかが、明瞭な形で示されないことがしばしばある。それであるがゆえ、リスナーは真実を探求したい思いを抱き、推理や考察を繰り広げるわけだ。しかしここで重要なのは、実は「真実が何であったか」ではなく、「その答えは永遠に示されない」ということなのだ。
    思えば、歴史とは、そういうものである。歴史について考えることは、しばしば真実探しのように捉えられがちだが、実はそうではないのである。真実が何であるかわからないからこそ、私たちはそれについて考えることができる。そのこと自体が素晴らしく、豊かなことである。この作品はそのテーマを、有名な「シュレディンガーの猫」の比喩などを用いながら訴えかけようとする。いや、そもそも強力な否定辞のタイトルと、そのイメージとは裏腹なポップさを兼ね備えていること自体が、虚実の二面性を指摘しているかのようだ。
    しかし実は、それはこれまでのアルバムすべてで、Revoが意識していたことだったのではないか。真実はわからない。だから、真実を追い求めるのが楽しい。多く歴史的なモチーフを描いているSHの物語は、そうした態度へ私たちをいざなう。そうであるがゆえに、『Nein』が「これまでのSHの物語」へのオマージュとして作られるなら、それらの物語を歴史として捉え、その真実が何であったかをもう一度考え直させるようなものになるのだ。

  • 清水耕司
    まずは「物語を楽しむ」ということから始めよう

    サンホララボを訪れる「Sound Horizon(SH)初心者」に向けて、「SH作品の楽しみ方」を書き記すとするならば、「作品を自身の成長の種にする」があるだろう。といっても堅苦しい話でもスピリチュアルな話でもない。単純に「物語を楽しむ」ということだ。もっと言えば「物語を楽しむことを楽しむ」である。
    SHに対しては、歌詞や楽曲がダークかつ難解、しかもジャケットやブックレットも含めたパッケージ全体に隠されている謎を解明あるいは考察する必要がある、と考えている人が多い。確かに、登場人物の関係性や、その人生に起きた出来事を楽しめるように用意された仕掛けも多いが、本質は物語を「楽しむ」ことに他ならない。もっとシンプルに、もっとストレートに、SHの物語を、Revoが生んだ世界に触れてみてほしい。強制的に書かされた読書感想文は苦痛だったかもしれないが、気の置けない友人同士で語らう推し話は血が滾るだろう。授業で読んだときは心に残らずとも、時を経てからふと手にした文学作品に心動かされた経験はないだろうか。物語という存在は貴方を豊かにしてくれるものであり、SH作品も、音楽であるのと同様に物語である。
    SH作品が「物語」であるということについてはこれまでも繰り返し述べてきたが、この『Nein』というアルバムはその点を振り返るに適した作品ではある。というのも、サンホララボ(動画)を見ていただければわかるが、『Nein』とは、これまでSHが発表してきた物語の「if」を集めたアルバムであり、つまり、各収録楽曲には既存の楽曲とは違う結末が描かれている。ある意味、セルフカバーソング集であり、あるいはアンサーソング集とも言えるが、以前に作り上げた物語を覆すことで、「物語」とはいくつもの「分岐」によって構成されている、悲劇もハッピーエンドも一つの選択肢によって一転する、ということが示された。特に『Nein』の楽曲は基本的に元となった楽曲の悲劇性を反転させているが、そこで聴者に問いかけられているのは、それが果たして「救済」なのかという点だ。SHでは「(重要な人物ほど)すぐ死ぬ」ように思われているが、死に至ることは悲劇なのだろうか。『Nein』で悲劇と喜劇の対比を見せているがそれは、誰かにとっての幸福が別の誰かにとっては不幸であるように、物事にはいろいろな側面や可能性があることを伝えてもいる。
    実はRevoは、それまでの作品でも音楽作品を届けると同時に「リテラシー」を求めていた。物語の中に存在する選択肢や分岐点、その先の可能性や多様性に目を向けることを示唆してきた。Revoがさまざまな謎を作品に盛り込みながらも正答を一切口にしないのも、聴く人に「考える」ことを願い、その中に「正解」があるとしているからだ。ではなぜ、Revoは可能性や多様性を重要視するのか。それは「人生」という物語も分岐によって構成されているからではないか。SHの「物語」を通じて、自分の可能性を感じ取ることができ、逆説的には「今」という一瞬一瞬の分岐点に立っていることに気づかせられる。自分という存在の希少性を見つめ直させてくれる。だからこそ、SH作品に対峙したとき、目の前にある「物語」を楽しんでみてほしい。SH作品に触れたとき、自分だけが持つことのできる感情を大切にしてほしい。

  • 冨田明宏
    『カゲロウプロジェクト』 が好きなら

    物語音楽×爆走ロックンロールが好きな貴方に。

  • さやわか
    『宮沢賢治』 が好きなら

    「えっ、『よだかの星』って知ってるよ。宮沢賢治でしょ」という貴方はこれを聴いてみましょう。「内容、全然違うんじゃない?」と思うなかれ、歌詞の根底に込められた、前に進もうとする力を肯定するテーマが重なっているのだ。なので、あの物語の精神が好きな人は、きっと気に入るはず。

  • 清水耕司
    映画 『スクール・オブ・ロック』 が好きなら

    ロックを通じて心を通じ合わせる若手ミュージシャンと謎のプロデューサー、が織り成す今作。15分を超えるc/w曲もドラマを感じる1曲だが、主人公ノエルの情熱を前面に出したリード曲は、熱く震えたい人にぜひ。

いずれ滅びゆく星の煌めき
(ヴァニシング・スターライト)
  • 冨田明宏
    『YOASOBI』 が好きなら

    “物語”を知るほど音楽が楽しい、そんな経験を求めている貴方に。

  • さやわか
    映画 『アベンジャーズ/エンドゲーム』 が好きなら

    今までの作品で語られた物語が一堂に会する! というオールスターキャストの大活劇感。そして「登場人物たちは死んでるかもしれないし、生きているかもしれない、すべては確率的なことである」という設定が不思議に符合しているのも面白い。

  • 清水耕司
    アニメ映画 『ドラえもん のび太の魔界大冒険』 が好きなら

    ここに収められたのは、描いてきたStoryの並行世界、あるいは既存曲の「物語リミックス」、あるいはRevo流もしもボックス。空想ならではの、絡み合う物語が生み出す、すこしふしぎの魅力を感じ取りたい方はぜひ。

Nein

この商品は、一般CDショップやECサイトにて購入可能である。
ショップ購入特典は先着のため、各店舗にて無くなり次第終了とのこと。

  • 『いずれ滅びゆく星の煌めき
    (ヴァニシング・スターライト)』
    ¥1,545+税 / PCCA.04969
    (PONY CANYON)
  • 『Nein』
    ¥3,182+税 / PCCA.04970
    (PONY CANYON)
ショップ購入特典 : yokoyan描き下ろしAround15周年記念イラスト絵葉書 陸乃片 (上記2作品共通特典)
  • 『いずれ滅びゆく星の煌めき
    (ヴァニシング・スターライト)
    『Nein』
  • 『いずれ滅びゆく星の煌めき(ヴァニシング・スターライト)』『Nein』は、
    ノベライズ、コミカライズもされており、
    様々な作家による解釈で物語を楽しむことができる。

    ■小説『ヴァニシング・スターライト』著:時田とおる/装画:有坂あこ [角川書店]
    全2巻発売中
    ■漫画『ヴァニシング・スターライト』漫画:有坂あこ/解釈・構成:時田とおる
    [月刊少年エース/角川書店]
    全2巻発売中
    ■漫画『Nein ~9th Story~』漫画(1巻):有坂あこ、渡太一(ゼロワン)、古海鐘一、神江ちず
    漫画(2巻):Jay.、有坂あこ、加藤よし江
    漫画(3巻):木乃ひのき(協力:藤森ゆゆ缶)、雪村ゆに、有坂あこ
    [ヤングエース/角川書店] 全3巻電子コミックで発売中
    詳しくはこちら

第6回の研究発表は以上となる。
この場を借りての研究発表は今回をもって一旦終了となるが、彼らの研究はこれからも続く......